Saturday, October 15, 2016

「空」と般若心経

般若心経では、次の4行が非常に有名です。

「色不異空」:物は空に他ならない。
「空不異色」:空は物に他ならない。
「色即是空」:即ち、物は空である。
「空即是色」:即ち、空は物である。

しかし、これらの4行の前に、次の4行が欠けていると、私は感じます。 

「若此有則彼有」:それが有るからこれが有る。
「若色有則空有」:空間が有るから物が有る(存在できる)。
「若空有則色有」:物が有るから空間が有る。
それ故に、

ですから、理解しやすくするために以下の通り、「空」を「空間」に置き換えた方が良いでしょう。

「色不異空」:物は空間に他ならない。
「空不異色」:空間は物に他ならない。
「色即是空」:即ち、物は空間である。
「空即是色」:即ち、空間は物である。

仏陀は、非分離、非差別、即ち非二元性という究極の真理の方程式を説きました。簡単に言えば、仏陀の方程式は、「A = 非A(A以外) = B だから、Aは存在できる」ということです。逆に、二元性に基づく一般的真理の方程式は、「A ≠ 非A(A以外) ≠ B なので、Aは存在できる」ということです。

言い換えれば、仏陀の理解は「この現象界における反対の全てのペア(対)は、表裏一体である」ということです。以下はその例です。

が有るからが有る。
が有るからが有る。
が有るからが有る。
が有るからが有る。
非存在が有るから存在が有る。
出発が有るから到着が有る。
終わりが有るから始まりが有る。
異質が有るから同一が有る。
苦しみが有るから幸せが有る。
それが有るからこれが有る。
Bが有るからAが有る。
Bなしでは、Aは不可能です。
Aは、Aではない要素(= B)からできています。

AとBは全て、自分を守るために人間のエゴによってでっち上げられた概念です。そして、全ての概念は、分離差別、即ち二元性を引き起こします。ですから、煩悩が生じて人が苦しむのです。この意味で、人間のエゴの無知から生じる全ての苦しみは、私たち自身の創造物です。それ故に、私たちは全ての概念を投げ捨てる必要があります。全ての概念の絶滅が達成された時、即ち二元性が超越され、非二元性が得られた時、私たちは涅槃に到達します。ですから、「空」は二元性を超越し、非二元性を得るための巧みな手段に過ぎません。もはや、分離差別はありません。しかし、私たちは非二元性を得るやいなや、「空」の概念を投げ捨てることを忘れてはなりません。